株式会社ファルマクリエ神戸

SERVICE

SERVICE 口腔粘膜

はじめに

「いくつになっても若く美しくありたい」
美容、健康、精神すべての面において、もっときれいになりたい、いつまでも若く見られたい、誰もがこう願っていると思います。
この欲求は年を重ねるごとに強くなってきます。これは加齢による老化が始まり、自らの願いとは逆の状態へと進んでしまうからです。そのため、多くの人はアンチエイジングに関する情報を収集し、肌に・体に・健康によいものを取り入れようとします。
情報は氾濫しています。書店には、「○○の医学」とか「何々によい△△」といったタイトルの本があふれています。同様にテレビでも健康に関する多くの番組が放映されています。病気になってから治療をするのではなく、病気を予防し健康寿命を長くしたい、何時までも若く元気でありたいとの健康志向の高まりによるものだと思います。

「塗る」「食べる」ヒアルロン酸、コラーゲンへの疑問

情報の多くは納得いくものなのですが、中には「あれ、それって本当なの?」と思うことがあります。例をあげると、コラーゲン、ヒアルロン酸に関しての情報です。私の疑問を言う前に、まず、コラーゲン、ヒアルロン酸が何かについて簡単に説明します。

(1)コラーゲンとヒアルロン酸

 コラーゲンは「―(グリシン)―(アミノ酸X)―(アミノ酸Y)―(グリシン)―(アミノ酸X)」とグリシンが3残基ごとに繰り返す⼀次構造(コラーゲン様配列)を有するタンパク質の⼀種です。コラーゲン配列が繰り返され、多くは、3重らせん構造を持った繊維の形で存在します。細胞外基質の主成分で⽪膚(真⽪)や筋⾁・内臓・骨・関節・目・髪などあらゆる組織に含まれており、細胞をつなぎとめる働きをしています。

コラーゲンとヒアルロン酸の概念図

 コラーゲンは⾝体の全タンパク質の量の約3分の1を占め、現在、30種類以上が知られています。真⽪、靭帯、骨にはⅠ型コラーゲンが、関節軟骨にはⅡ型コラーゲンが多く含まれています。Ⅲ型コラーゲンは、Ⅰ型コラーゲンと同様の組織に共存することが多く、創傷治癒などに関わっています。量的にはそれほど多くありませんが、線維構造を取らず、膜貫通タンパク質として細胞接着に関与し、その異常が、⽔疱性類天疱瘡、接合部型表⽪⽔疱症といった疾患を引き起こすことで知られるコラーゲンもあります(XVII型コラーゲン)。
ちなみに、体内で最も多いのがⅠ型コラーゲンで、分⼦量は約10万ダルトンあります。

水分子、コラーゲン分子、ヒアルロン酸分子の大きさの比較

 このように、コラーゲンには多くの種類があり、それぞれ異なった働きがあり、組織によって発現している種類が異なるということです。
 ⼀⽅、ヒアルロン酸は、N-アセチルグルコサミンとグルクロン酸が連結した構造を有する多糖類で、分⼦量100万ダルトン以上の⾼分⼦です。関節、硝⼦体、⽪膚、脳など広く⽣体内の細胞外マトリックスに存在しています。非常に保⽔⼒が⾼く、化粧品の保湿成分として利⽤されています。

(2)機能を発揮する形で取り入れられていないのが実情

 現在、さまざまな化粧品や⾷品にコラーゲン、ヒアルロン酸⼊りの商品が存在しています。しかし、コラーゲンとヒアルロン酸は⾼分⼦、つまり分⼦量が⼤きいため、⽪膚を通じて吸収することはそもそも困難な物質なのです。分⼦量を⼩さくすれば⼊るだろう、とミクロコラーゲンなるものも商品化されていますが、そもそもコラーゲン、ヒアルロン酸は⾼分⼦の状態でこそ本来の機能を発揮するのであって、このアプローチは本末転倒です。
 また、⾷べて⼝から飲み込んだ場合、⾷物は消化管において消化酵素により分解・消化されますから、タンパク質であればアミノ酸に分解され、炭⽔化物であれば単糖類に分解されてから体内に吸収されます。ということは、コラーゲン、ヒアルロン酸を⾷べても体内に吸収されるのは、コラーゲン、ヒアルロン酸を作っているアミノ酸や単糖類であり、高分子のコラーゲン、ヒアルロン酸ではないということです。

有効成分を効率良く体内に吸収させるには

(1)口腔粘膜の利用

 では、こうしたコラーゲン、ヒアルロン酸を体内に吸収するためにどのようなアプローチがあるのでしょうか。
 考えられるのは、粘膜を通した吸収法です。皮膚はそもそも外界から身を守るための組織であり、体内のものを外に出す働き(汗など)はありますが、外界から体内へものを取り込む働きはあまりありません。皮膚からの吸収が期待できるのは、分子量がせいぜい300ダルトン未満の低分子です。湿布薬に含まれる薬効成分もこの範囲までです。そこで着目したのが粘膜なのです。
 口の中の粘膜は吸収効率高いという事実は、口腔にかかわる人たちの間では周知の事実です。粘膜から吸収されたものは、肝臓で代謝される経路を通らずに体に行き渡りますし、実際に舌の下に置いてゆっくりと溶かして用いる錠剤である「舌下錠」はそのような特性を生かしてつくられた薬です。
 それならば、コラーゲンやヒアルロン酸のような高分子物質も、口の粘膜からなら効率よく吸収されるのではないかという仮説もすぐに立てられます。そのことに同意はしても、実際に試してみた人はいませんでした。そこで、実証研究に取り組むことにしました。
 結論からいえば、予想通りコラーゲン、ヒアルロン酸ともに皮膚を通してより、口の粘膜を介した場合の吸収効率のほうが圧倒的に高いことがわかりました。以下に、検証した結果を紹介いたします。


(2)検証実験

(a)目的

 口腔粘膜は、①消化酵素による分解が少ない、②粘膜下組織の静脈を経て肝臓を通ることなく直接大循環に入る、③経皮とは違い、角質層が存在しない、の3つの条件により、速やかに効率よく吸収されることが期待されます。
 ①②を確認するにはin vivo実験(動物実験)が必要ですが、動物倫理上実施できないため今回は、EPISKIN社製(ニッコールグループ株式会社ニコダームリサーチ販売)の三次元組織モデル(口腔粘膜モデル、表皮モデル)を使用したin vitro実験(試験管内実験)で③を中心に検証しました。

三次元培養組織モデル
三次元培養組織モデルの形状

(b)試験方法

 口腔粘膜モデル(SkinEthicTM HOE)、皮膚モデル(SkinEthicTM RHE)の上層に検体試料(濃度0.25mg/ml、150μl)を入れ、組織中および組織を透過してリザーバー液層に達する試料の量を測定しました。また試験終了後の組織断面を顕微鏡にて観察しました。

高分子物質の吸収試験

(c)高分子の吸収

 まず、分子量の違い、すなわち大きさの違いによる吸収効率を検討しました。この検討は、分子量の異なるデキストランを用いて行いました。
 粘膜モデル(HOE) 、皮膚モデル(RHE)の両方において、分子量が大きくなるに従いリザーパーへ達するデキストランの量、すなわち吸収されるデキストランの量が減少しています。また、予想どおり粘膜のほうが透過量が多く、皮膚に比べて200倍から1000倍効率が高いことがわかりました。おもしろいことに粘膜では、組織中のデキストランの量は分子量が大きいほうが多くなっていました。

口腔粘膜と皮膚の吸収量の違い

組織中の吸収量の比較(デキストラン)


(d)コラーゲン、ヒアルロン酸の吸収

 仮設どおり皮膚は高分子の吸収が悪いこと、粘膜は皮膚に比べて格段に吸収能が高いことがわかりましたので、次にコラーゲン、ヒアルロン酸について検討しました。コラーゲン、ヒアルロン酸は、化粧品、健康食品などによく使用されるⅠ型コラーゲン(平均分子量13.9万)およびヒアルロン酸ナトリウム(平均分子量60万〜112万)を使いました。
  この結果より、組織中へのコラーゲンの吸収性や組織を通過したコラーゲン量は、HOEのほうが明らかに高いことがわかります。
 図の組織中へのヒアルロン酸の吸収性は試験前の値と比べると、HOEは時間経過するごとに吸収量が増加していることが確認できます。また、ヒアルロン酸の組織透過性は、HOEのほうが明らかに高いことがわかります。

口腔粘膜と皮膚の吸収量の比較(コラーゲン)

(e) 組織断面の観察による吸収の確認

 試験終了後の組織断面を顕微鏡にて観察し、高分子物質の浸透をビジュアルで評価しました。
 ヒアルロン酸の蛍光標識観察については、蛍光顕微鏡にて直接プレパラートを観察することで、外界から適用したヒアルロン酸ナトリウムに起因する蛍光を観察しました。

(f)結論

 I型コラーゲンおよびヒアルロン酸ともに口腔粘膜モデルのほうが皮膚モデルよりも吸収量が多いことが確認されました。さらに、組織観察の結果から、コラーゲン、ヒアルロン酸とも皮膚モデルにおいては、角質層にとどまり、角質層より内部には吸収されていないことがわかりまし。
 以上の結果により、コラーゲン、ヒアルロン酸を投与する際の経路として口腔粘膜の有用性が示唆されたといえます。
 ここで誤解してはならないのは、本結果は、吸収という側面から考えた場合に粘膜が皮膚に勝るということであって、吸収以外の側面でのコラーゲン、ヒアルロン酸の働きを否定するものではないということです。皮膚表面においてもコラーゲン、ヒアルロン酸は優れた保水力を発揮し、皮膚の健康に役立つのはいうまでもありません。

口腔粘膜から健康と美を考える

(1)口腔粘膜の働き

 高分子であるコラーゲンやヒアルロン酸は、塗ったり、食べたりするよりも口腔粘膜を吸収経路としたほうがよいとする検証結果が出ましたが、ここではそもそも口腔粘脱はどういう働きをしているのかについて述べておきたいと思います。
 頬の内側など口の中を覆っている組織が口腔粘膜です。血管と神経が分布し、吸収や分泌などにかかわっています。
 そして、口腔粘膜の働きとして忘れてはならないのは味覚の場であるということです。甘味、酸味、塩味、苦味、うま味の五つが基本味として位置付けられますが、これら基本味の受容器すなわち味を感じる場所はヒトの場合おもに舌にあります。
 嗅覚すなわち臭いに感じることに比べると味覚は生涯を通じて比較的安定していると言われていますが、それでも、加齢による衰えはあります。特に塩味に関する衰えは早く来ることがあります。若い人と食事をして自分だけが塩を振りかけているということがあれば要注意です。塩味覚の衰えは塩分の取りすぎに繋がりひいては高血圧、動脈硬化の原因となります。

 私だけの意見かもわかりませんが、年より若く見える人、男女ともに艶っぽい人には美食家が多いように思います。美食家と言っても贅沢な食事をしている人、あるいは大食漢という意味ではなく、おいしいものをおいしく食べられる人、食事を楽しめる健康人という意味です。言い換えると食事を楽しめない人は老化が早く進むのではないかということです。そして、食事を楽しむためには、おいしいものをおいしく食べられるよう、口腔粘膜の健康を保ち、味覚を大事にしなければなりません。

(2)口腔粘膜を用いた健康・美用法の課題と可能性

口腔粘膜を取り巻く課題をまとめると以下のようになります。

1:口腔粘膜は熱い、冷たい飲食物からの刺激、感染の危険性といった外部からの傷害だけでなく、自身の歯による咬傷といった内部からの傷害の危険性に常にさらされています。
これらは全て口腔粘膜機能の低下につながります。

2:口腔粘膜に悪影響を起こすものに、口腔乾燥症があります。口腔乾燥症は、唾液腺が障害され唾液分泌が低下し口腔内が乾燥することによっておこります。発症すると口腔の違和感、強い口臭、舌痛症や口腔粘膜の疼痛、口内炎や口腔カンジダ症、粘膜潰瘍や義歯性潰瘍の頻発、咀嚼、嚥下、味覚、構音などの障害を示すようになります。

3:先に述べたように高分子の口腔粘膜での吸収効率は皮膚の何百倍もあります。
しかし、その広さは、たかだか100~200㎠と狭いため、多量の高分子を吸収させるには工夫が必要です。


これらの課題をどのようにして解決するか、その可能性を考えたいと思います。
まずは、齲歯(うし)、歯周病の予防に努め、歯ぎしりの対策をし、マッサージも欠かさずに行うことが大事なことはいうまでもありません。
 他の方法として私が提案するのは、口腔粘膜シール(仮称)、口腔マッサージ棒付きカラメッラ(仮称)など、効率よくコラーゲンやヒアルロン酸などの成分を吸収させるためのものを利用することです。
 口腔粘膜シールは、コラーゲン、ヒアルロン酸といった有効成分をこのシールの中に含有させ、口腔粘膜に貼ります。シールは口腔内でゆっくりと溶けるものを利用します。そうすることでシール内の有効成分を口腔粘膜から効率よく吸収させることが可能になります。この方法は特に寝る前に利用すると効果的です。睡眠中にゆっくりと有効成分が溶け出し口腔粘膜から吸収されるだけでなく、コラーゲン、ヒアルロン酸の優れた保水力から特に夜間に起こりやすい口腔乾燥を予防する効果も期待されます。
 口腔マッサージ棒付きカラメッラの「カラメッラ」とは、飴、キャンディーのイタリア語です。有効成分はカラメッラとして口腔マッサージのボールの表面にコーティングします。これで口腔内をマッサージします。有効成分は、マッサージをしている間に溶け出し口腔粘膜から吸収されることになります。カラメッラがなくなればマッサージ終了です。有効成分の効率的な投与とマッサージというダブルの効果が期待されます。

効率良くコラーゲンやヒアルロン酸などを吸収させるグッズ[口腔粘膜シート]

効率良くコラーゲンやヒアルロン酸などを吸収させるグッズ[カラメッラ]

 

今回は美容という側面から口腔粘膜の利用を考えましたが、口腔粘膜を利用した方法は、高分子物質の新しい投与方法 Drug Delivery System(DDS) になりうるものとして現在鋭意検討を続けています。


本稿に記載した三次元培養組織モデル(口腔粘膜モデル、皮膚モデル)を使った研究は、コスモステクニカルセンターの吉田大介様、井筒ゆき子様との共同研究によって導き出されたものであり、感謝申し上げます。また、記載したデータの概要は、第135回日本薬学会総会にて田中葉子氏(当時 姫路独協大学分子病態学教室)、矩口真理子博士(当時 姫路独協大学健康管理学教室)、株式会社オーラルファッションの高木滋樹博士、株式会社アメイズプライスの山本良磨氏が発表したものから引用しました。この場を借りて感謝申し上げます。